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2018.07.05SPE

『POWER HALL 2018』
7・10後楽園ホール大会
全カード見どころ①

長州力プロデュース興行『POWER HALL 2018』
7・10後楽園ホール大会全カード見どころ
①15分1本勝負 藤原喜明vs伊橋剛太

「飯伏とのセットではなく
伊橋に訪れた自分の物語」

当初、今大会は全6試合として発表され、その中に伊橋剛太の名前はなかった。長州プロデュース興行第1弾となった1・14後楽園ホール大会のメインで長州&飯伏幸太とトリオを組んだ伊橋にとって、それは誰が見ても相撲で言うところの「家賃が高い」ポジションだった。案のじょう不甲斐ないファイトに終始してしまい、試合後のバックステージで記者団を前に長州から痛烈なダメ出しをされてしまう。

長州に言わせれば、それは痛烈でもなんでもなく当たり前のことを言っただけとなるが、現在のプロレス界はそういうことをキッチリと口にする選手の方が少ない。その刺激的な言葉が報じられるや、大きな反響を巻き起こした。

プロレスの価値観が広がる中で、ファンが支持すれば認められるという風潮が平成に入りマジョリティーとなった。伊橋は独特の体型がコミカルに映り、ゴールデン☆スターのパートナーとして受け入れられてきた。時には飯伏の人でなし的な技の実験台のような扱いをされるも、見方を変えればそれによって存在感が見る者に植えつけられていたと言える。

確かにそれは伊橋にしか務まらない立ち位置であるが、長州が言わずにいられなかったのはそれ以前の問題だったから。「プロレスやろうと思わない方がいい。遊びじゃないんだから。死んじゃうよ」――コメントスペースの席を立つ直前に言ったこの言葉は、重い。

これほどのキャリアを重ねてきた長州であっても「今でもリングに上がるのは怖いですよ。無事、リングを降りて控室でシューズの紐を解いた時にホッとするんです」と噛み締めるように言う。2000年7月30日、一度は現役を引退しながら大仁田厚の再三に渡る要求を飲んで横浜アリーナにおける電流爆破デスマッチへ臨むさい、長州は3ヵ月前に試合中に倒れて他界された新日本プロレスの後輩・福田雅一さんの遺影を抱えて入場した。

この数年のバックステージコメントや記者会見における発言を見直しても、何度となく「ケガをしないように」という言葉が出されている。あの日、伊橋は「長州をキレさせた」と報じられたがじつはキレたのでもなんでもなく、冷静な目で伊橋を見ていたのだ。本当にキレていたら、あんなものでは済まなかっただろう。

実力やプロレスのスタイル、方向性や価値観といった次元ではないところで「やろうと思わない方がいい」と言われたのだから、伊橋は存在そのものにダメ出しされたようなものだった。見る側は「それでも伊橋は頑張っていた」「伊橋と長州のプロレスの価値観は違う」という受け取り方ができても、本人とすれば動かしようのない現実を突きつけられた以外の何ものにも転化できなかった。

これまでは、何があっても伊橋剛太という居場所が在った。それに甘えてきたことを痛感した伊橋は、その居場所からさえも消えてしまいたくなった。プロレスは、勝敗という一元的な価値観でくくれぬものがたくさんある。でも、何もかもを「ノド元すぎれば…」で済ませてしまったら成長など望めぬし、何よりそのようなプロレスラーをファンは応援しようと思わない。

たとえ表現方法が多様化しようと、悔しいと思ったら忘れずバネにしなければならない。伊橋は、自分のポジションの居心地がいいことから、これまで砂を噛むような思いを経験してこなかった。

初めて味わうその思いは、どんな言葉で表しても安っぽくなってしまうほどに苦しく、辛いものだった。「しょっくち(第1試合)からやれ」と言われながら、第2弾興行のカードに入らなかった。それが長州の答えならば、自分から動くしかない。

今まで、やって当たり前のことをやらずに来た伊橋だけに生まれ変わったようなトレーニングを続けて30kg以上減量したからといって、それは評価の対象とはなるまい。7月10日までは、スタートラインに立つためのことをやっているに過ぎないのだ。

キャリア、実績、そして業界的ポジションなどあらゆる面で比較にさえならぬ藤原喜明を相手に「変わった姿を見せる」のは高いハードルである。だが、ここで何も残せなかったら伊橋に“次”などない。

そんな伊橋ではあるが、決戦前の時点で変わった点が一つある。これまでは常に飯伏と“セット”だったのが、DDT入団9年にして本当の意味で個人の物語が訪れたことだ。勝っても負けても、変わった姿を見せられてもダメなままに終わっても、自分以外の存在は入り込んでこない。

それを“主役”という言葉で表すのが適切かどうかはともかく、1・14から7・10にかけて伊橋剛太というプロレスラーに向けられた関心は確実に高まった。これはけっしてマイナスだけで覆われたシチュエーションではないはずだ。

DDT直営居酒屋「エビスコ酒場」で料理長を務める伊橋は数年前、フードバトル(その場で料理を作って食べてもらい、どちらがおいしいかを競う企画)に出場し、勝利をあげた直後に大泣きした。微笑ましさから「試合で勝っても泣かないのに何泣いてんだよ!」という声も飛んだが、その姿を見た時に「ああ、やっぱり勝つことで喜び、輝きたいんだな」と思えた。

負けるのが当たり前になると、そのような思いを持てなくなるもの。でもギリギリのところで、そうではなかった。伊橋は本当に「プロレスをやっちゃいけない」人間なのか――この一戦で見極めていただきたい。

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